発達障害の子の希望「麻布中学へ行きたい」を叶えたい 父・赤平大さんが提案したたったひとつの作戦

赤平大

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発達障害のわが子と二人三脚で中学受験に挑み、高IQを持つ一方で集中力が30分以上続かない子を麻布中学合格に導いた元テレビ東京アナウンサーの赤平大さん。

発達障害支援の手厚い私立中学への入学を目指していた6年生の12月、突然「麻布中学を受けたい」と言った息子さん。その意思を尊重し後押しすべく、赤平さんが提案したひとつの作戦とは? 著書『たった3つのMBA戦略を使ったら発達障害の息子が麻布中学に合格した話。』より、当時を振り返った一節を紹介します。

※本記事は赤平大著『たった3つのMBA戦略を使ったら発達障害の息子が麻布中学に合格した話。』(飛鳥新社)より一部抜粋・編集したものです。

発達障害の影響で「書くこと」が苦手な子が、どう受験勉強を進めるべきか

麻布の入試問題の最大の特徴は「記述問題の多さ」で、「質・量ともに難関校の中でも群を抜いている」と言われています。過去問を見ると、大人の私でもまったく歯がたたない問題だらけです。

発達障害の影響で息子は、この記述―「書く」という作業が極端に苦手です。自分の頭の中にある情報の中から、必要な部分だけを抜き出し整理して答案に書き込むことが上手くできません。

ワーキングメモリと処理速度が関係していて、単純な問題ではありません。普通に考えて、息子と麻布との”相性”は最悪だと感じました。記述力を劇的に引き上げない限り、合格は不可能。

でも、上げようにも、時間は2か月しかありません。塾にも行っていませんし、私は勉強を教えるプロではありません。並大抵のことをしていたのでは、書く力を麻布合格レベルまで引き上げることなど、できようはずがありません。どうするか。

私は、極端な作戦に出ようと決めました。それは一般的な勉強―漢字読み書きや知識の暗記、計算など一切捨てて、「書くことだけを練習する」ということ。記述力アップだけに完全に振り切った作戦です。

麻布の試験で最も得点配分の高い記述問題を攻略するしか、合格への道はありませんし、苦手であるからこそ、得点の伸び代があると考えました。私はここまでの状況を全て息子に話し、この戦略を提案してみました。

「”山川の日本史”を徹底的に要約する」が麻布中学合格へのたったひとつの戦略だった

「このままだと、きみは麻布には絶対に受からない」「勝つための戦略なんだけれど…お父さんと”ギャンブル”してみないか?」私の言葉に、息子は少しも迷いませんでした。

「うん、やってみる」記述力を上げるために使用した教材は2つ。1つ目は山川出版社発行の『詳説・日本史』です。通称”山川の日本史”と呼ばれる教科書ですが、この”山川の日本史”を「ただひたすら要約」する。それが私の選んだ作戦でした。「80ページの内容を、この3つの言葉を使って80字に要約しなさい。制限時間は3分」

「155ページから158ページまでを、この5つの言葉を使って300字で要約しなさい。制限時間は5分」このように、ある範囲の中でキーワードを抜き出し問題文を作成します。制限時間も文字数も適当に決めます。

この作戦の目的は、とにかく「情報を整理し書き出す」ということ。高いワーキングメモリの影響で頭の中に大量にインプットされた情報を、苦手な情報処理力で整理し、書く。

解答は正解でも不正解でも、文章としてまとまっていなくてもOK。とにかく「時間内に、書かれている情報の整理をして文字数内に書く」ということだけに特化して、1つでも多く数をこなすことを優先しました。残された時間がない中で”質より量”という選択しかなかったのです。

過去問も”丸付け”はせず「とにかく量を」2か月間で記述力を上げるために使用した2つ目の教材は、「過去問」です。中学受験界で”銀本”と呼ばれている過去問題集があります。

大学受験の時に使う過去問集を”赤本”と言いますがその中学受験版で、公立中高一貫校向けのものや私立中高一貫校共学校向けのもの、男子校向けのものなど色々あります。その銀本のうち、「国語の”記述問題”だけをひたすら解く」ようにしました。漢字読み書き問題や抜き書き問題、選択問題には一切手を付けず、とにかく記述問題だけ。

さらに、「わからなかったら、答えを見ながら書いてもいいよ」と息子には伝えました。書くことへのアレルギーを減らし、書き慣れるためには「答え丸写し」でも良いという判断です。書きっぱなしやりっぱなしで次の問題、また次の問題……と取り組んでいきました。ここでも私が”丸付け”はしません。採点をしたり確認作業をしてしまうと、その分だけ時間が失われてしまいます。

ギフテッド2Eだから

年が明けて1月に入ってから、麻布の過去問をやってみることにしました。数年分の過去問に取り組み、採点結果をグラフ化してみると、得点がどんどん伸びていくのがはっきりとわかりました。過去問には、各年度の科目ごとの合格最高点と最低点が記載されています。

それと比較すると、息子の得点が合格最低点を上回るようになったんです。鬼門だった記述問題も、徐々に書けるようになっていました。記述特化が上手くいっているように感じました。「これは、本当に受かるかもしれない……」嬉しさと同時に、”不安”な気持ちになったことを覚えています。

そして、その不安は現実になりました。この本は私と息子の「トライ&エラーの記録」こうして書くと、「受験勉強たった2か月で合格した」という部分だけがフォーカスされてしまうかもしれません。実際、息子の中学受験の件でいくつかのメディアから取材を受けたのですが、記事になるとやはり、「発達障害を持ちながら麻布に合格」「しかも塾にも行かず準備期間2か月で」という部分だけがどうしても前に出てしまいます。

また、この麻布受験についての私のインタビュー記事を読んだ方からは、こんな声もありました。「ギフテッドだから、麻布に受かったんでしょ」高IQ、2Eとして能力があったからということは、結果に作用したでしょう。息子の特性が、たまたま「麻布の中学受験と相性が良かった」ことも間違いありません。

でも、高IQだから勉強ができるわけでは決してありません。こうした誤解や偏見が、多くの当事者や家族を苦しめていることもまた事実です。麻布を受験すると決めたのは、たしかに2か月前でしたし、塾にも通っていなかったことは本当ですが、「それまでまったく勉強していなかった」ということではありません。息子は小学生になった頃から、毎日少しずつ家庭学習を続けてきました。でも、ADHDの特性で、息子の集中力は30分ももちません。

「どうやったら、息子が勉強を続けられるか?」登校前の朝の短い時間や”スキマ”時間を使ったりしながら、細切れに勉強することを息子に提案し、時間をかけて習慣にしました。

やはり、何もせず、勝手に勉強ができたということではないのです。勉強だけではありません。運動や日常生活のあらゆることを、「何を、どうしたら、息子が成長できるだろう?」とトライ&エラーを重ねてきました。

たった3つのMBA戦略を使ったら発達障害の息子が麻布中学に合格した話。

たった3つのMBA戦略を使ったら発達障害の息子が麻布中学に合格した話。

発達障害のわが子を中学受験成功、麻布中学に合格に導いた元テレ東アナが、子どもに伝えた具体的な勉強法や生活のルール作り、伝え方までもわかりやすく解説します。生きづらさを抱える子どもの学習&生活支援に悩むすべてのパパ&ママに!